【事例紹介】妻子のため50歳で家を購入。「85歳完済・住宅ローン」に意気込む年収2,000万円のエリートサラリーマン、55歳で人生に絶望… 原因は「2024年に多くの人が直面した悲劇」
- Yuki Hata
- 1月26日
- 読了時間: 7分

※本記事はお客様の許可を得たうえで、仮名を用いて掲載しています。
住宅ローンの決断と今後の資産形成計画
営業職の飯田武さん(仮名)は、45歳のときに5歳年下の妻、ゆかりさんと出会いました。ゆかりさんは別の部署の事務員でしたが、とある飲み会をきっかけに意気投合。すぐに交際を始め、結婚を決めます。周囲からはスピード婚と少しからかわれました。
入籍後、武さんが年収2,000万円と家計に余裕があったこともあり、ゆかりさんは退職して家庭に専念することに。「もう40歳を過ぎているけど、子どもは欲しいね」と二人で共通の理想を持っていたことが結婚の決め手のひとつです。
幸運なことに、ほどなくしてゆかりさんは妊娠、41歳で出産を果たしました。夫妻にとってこのうえなく理想的な結婚生活に、家庭には笑顔が絶えませんでした。特に武さんはそれまで自身が結婚しなかった理由として「理想が高すぎた」と言っています。そんな武さんが理想の結婚生活というのですから、相当にゆかりさんと馬が合ったのでしょう。
もうすぐ50歳だが…子どものためにマイホームを購入
子どもが4歳になったころ、ゆかりさんから武さんに相談が。
「この子が小学生になったら、自分の部屋を持たせてあげたいと思っているの。晩婚だった分、勉強する環境はしっかり整えてあげたいのよ」
武さんは妻からの提案に共感し、「それならいっそマイホームを購入しよう」と意気込みました。ゆかりさんは武さんがもうすぐ50歳であることに年齢的な不安を覚えましたが、年収が高いこともあって問題ないだろう、と考えることにしたのです。
これまでスムーズに理想を叶えてきた飯田さんご夫妻は、さっそく家を購入し、住宅ローンを組みました。ローンの金額は約1億円と高額でしたが、収入が高いこともあり返済負担率は収入の20%程度に抑えることができそうです。
武さんは同僚から、「住宅ローンは金利が低いから、しっかり長期間借りてあまった資産は運用したほうが効率いいよ」とアドバイスを受けていたため、金融機関を厳選して35 年ローンを組むことにしました。通常、住宅ローンの返済期限は80歳までとされることが多いものの、なかには85歳を限度に借入ができる金融機関もあります。
飯田さんご夫妻は、お互いに独身期間が長かったこともあり、1億円超の貯蓄があったことも理由に、無事住宅ローンの審査がおりました。金利は固定金利で1.5%ほど。資産形成に詳しい同僚の話によると、投資信託は6%程度の年利が期待できるとのことだったので、計画は盤石に思えました。
ゆかりさんはここでも一抹の不安を覚えていましたが、武さんから同僚に聞いた話を丁寧 にゆかりさんに聞かせたことで夫婦ともに安心感を得ることができました。ところが5年後、家族を悲劇が襲います。リーマン・ショック級の大暴落と、武さんの病気です。
青天の霹靂「大暴落」
マイホームを購入して5年後、飯田さんご夫妻は資産のほとんどを投資信託に預け、順調に積み立てを継続していました。ところがこのころ、リーマン・ショック級の世界的な暴落が起こったのです。
各国ではほぼすべての指標が下落し、とりわけアメリカ株はその影響を大いに受けました。「なにが起こってるの? 私たちのお金が毎日すごい勢いで減ってる……」ゆかりさんは青ざめた表情で武さんの肩を揺さぶります。飯田さん夫妻もほかの例にもれず、100%アメリカ株に投資していたのです。その資産は4割ほどに下がってしまいました。失った金額は5,000万円を超えています。ゆかりさんに頼られたところで、武さんにもなにが起こっているのかわかりませんでした。
「ごめん。俺もどうしたらいいかわからないから、同僚に相談してみるよ」 武さんはやっとの想いでそれだけ口にして、翌日同僚に相談することにしました。
ところが、 翌日の同僚は仕事もそっちのけで上の空。とても話しかけられるような雰囲気ではありませんでした。聞いた話によると信用取引で大きな借金を作ってしまい、自己破産を視野に入れているとのこと。これではとても頼りになりません。
武さんは自分の判断で、これ以上資産を失う前に積み立て設定を解除し、すべての投資信託を売却しました。
ところがその2ヵ月後、アメリカ株は回復の兆しを見せ始め、みるみるうちに株価をあげ ていったのです。そのチャートを見て武さんは、精神を病んでしまいました。ゆかりさんは仕方なかったとはいえ、夫を責めること以外に感情の発露ができませんでした。
「最初に言った話と全然違うじゃない! なんであのとき勝手に投資信託を売却したの? 家を買ったときより資産が減っていて、あの子の学費はどうするのよ! 私たちの老後もどうするつもりなの!」
武さん自身も怒鳴りつけたい気持ちがありましたが、自分がしっかりしなければ家族が崩 壊する……その一心でなんとか言葉を飲み込み、「本当にごめん、なんとかするから」とゆかりさんをなだめました。ところがこれも家庭にとっては悪手でした。武さんはあらゆるプレッシャーをその身に背負い、ついに精神を病んでしまったのです。
一時的な大暴落をきっかけに、飯田家は資産の半分近くと、健康を失いました。営業職だった武さんは、その健康状態に起因してやむをえず事務職に転向しました。それにより年収も半分以下に……。住宅の維持も、子どもの教育費の工面も、老後の理想も絶望的でした。
飯田家の課題
飯田家は、たくさんの課題を抱えることになってしまいましたが、改善策も考えられます。まずは課題を整理していきましょう。
課題1:住宅ローンの計画性
高額な住宅ローン(1億円)の長期返済(85歳完済)は、計画的に無理があった。年齢による収入減少リスクや健康リスクが考慮されていなかった。
課題2:資産運用のリスク管理不足
投資利益を100%アメリカ株に集中させるなど、分散投資ができていなかった。大放出に対する備えがなく、パニックによる損切りでさらに損失が拡大した。
課題3:夫婦間のコミュニケーション不足
ゆかりさんの不安や意見が十分に考慮されず、武さんが一人で判断してしまった場面が多 かった。問題発生時の対応が適切でなかったため、夫婦間の信頼関係にひびが入った。
課題4:健康リスクへの備え不足
武さんが健康を損ない、収入が減少したことで家計が危機に陥った。病気や失職などのリスクに対する保険や貯蓄が不足していた。
課題5:老後資金の不足
資産の大幅な減少と収入の低下により、老後資金が大幅に不足する見通し。
絶望的状況から改善するための策
次に具体的な改善策をみていきます。以下のようなことが考えられるでしょう。
改善策1:住宅ローンの見直し
ローンの返済期間を短縮し、現状の家を売却して負担の少ない住宅に住み替える。 ローンの繰上げ返済を検討し、利息の負担を軽減。
改善策2:資産運用のリスク分散
分散投資(株式、債券、現金、不動産など)を取り入れ、リスクヘッジを強化。市場の変動に影響を受ける困難な資産形成手法を検討。
改善策3:夫婦間での定期的な打ち合わせ
家計や資産運用について定期的に夫婦で情報を共有。ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、第三者の視点を取り入れることも検討してみる。
改善策4:健康リスクへの対応
武さんの健康回復に向けた支援を最優先とし、医療保険や所得保障保険を再検討する。ゆかりさんの再就職やパートタイムの仕事を検討し、収入源を分配する。
改善策5:老後資金の確保
現状の資産と収入に基づいて、老後の生活費を再計算する。 公的年金を最大化するために、加入状況や受給年齢を確認する。
改善策6:投資リテラシーの向上
資産運用やリスク管理に関する知識を夫婦で学び直す。 不確実性の高い市場の状況下でも冷静に対応できる仕組みを作る。
救いは貯蓄
途方に暮れた飯田さんご夫妻は、藁にも縋る想いでファイナンシャルプランナーに相談しました。幸いにも、飯田さん夫妻には結婚前の貯蓄がある程度残っています。これからできる改善策を列挙し、優先順位を決め、ファイナンシャルプランナーと一緒に今度の人生について考えることにしました。
「同僚のことは恨んでいません。前々から投資で相当儲けているという話を聞いていましたし、彼の話は納得感が強く、真似をすれば上手く資産を増やせると、プロでもない人の意見を鵜呑みにしてしまったんです。自分で考えることを放棄してしまっていました……」 武さんはそういいます。プロだから鵜呑みにしていい、というわけではありませんが、噂話や聞きかじっただけの知識で行動するのは危険を伴います。
お金のことに限らず、重要な判断には、情報の正確性を慎重に精査することが重要です。
波多 勇気
波多FP事務所
代表ファイナンシャルプランナー
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